人の豊かさ
東北ヘルプは、「何もない」所から始まりました。
震災が起こり、津波が来てところでは、全てが「ガレキ」となりました。
それ以外の場所でも、電気、水道、ガス、そしてガソリンが止まりました。
町はただの塊になったのです。
しかし、そこに人がいました。
3月18日に、キリスト者は集まり、東北ヘルプが生まれました。
私と阿部頌栄牧師が事務局となりました。
人が、そこにいたのです。
東北ヘルプは、人です。
それは、無力な集まりかもしれません。
しかし、人が集まる時、無力さは力を帯びます。
神様が、心ある人と共におられるからです。
今回も、海外から人が支援に来てくださいました。
そのレポートを、東北ヘルプ職員の遠藤さんが致します。
人のつながりだけが人を支えると思います。
その証として、ご高覧賜れば幸いです。
(2013年6月21日 事務局長 川上直哉 記)
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自分のからだの声を聞いて、今を乗り越えていく
―「心とからだのケア」体操会を支援して―
6月8日から19日の間、キャパシターインターナショナルの創設者・パトリシア ケーン先生が来日され、福島・宮城・岩手を含む計14か所で「心とからだのケア体操」が行われました。東北ヘルプでは、今回のパトリシア先生の来日に際し、体操の開催会場のアレンジや宿泊・移動に関するお手伝いをさせていただきました。
アフリカ、アジア、中南米など社会的な困難を抱える多くの場所で「心とからだのケア体操(キャパシター)」を行なってきたキャパシターインターナショナル。
パトリシア先生は、2011年3月の東日本大震災の直後から、「ぜひ日本の被災地を訪れ、「心とからだのケア体操」を紹介したい」という思いを持ってくださっていたそうです。
ところが、来日にあたりなかなかご縁がつながらず、歯がゆい思いをされていたそうです。 そんな折りの昨年秋に、ガリラヤ湖にて、日本で活動するカトリック・メリノール会のシスターとパトリシア先生が偶然に知り合い、そこから東北ヘルプともご縁がつながり、震災から2年3ヶ月が過ぎた今回ようやく来日の想いが叶いました。
キャパシターインターナショナルという団体は、1988年内戦終結後のニカラグアで傷ついた人々が簡単なマッサージや体操等でこころと体の健康を自分自身で保つことができるような方法を分かち合ったところから活動を開始なさったそうです。人々がより健康で活き活きとした生活ができるよう草の根のレベルで活動を続け、今年で設立25周年を向かえます。 ”キャパシター”とはスペイン語で「命を引き出す」という意味だそうです。
今回、宮城県東松島市・石巻市では、津波被害のあった高齢者デイケアセンター・震災後に建てられたコミュニティーセンター、石巻市内個人宅等での体操会が行われました。福島県では、福島市内の幼稚園や保養プログラムの母子サロン、岩手県大船渡市ではフィリピン人の方々の集いの中で、パトリシア先生の体操会が行われました。
「心とからだのケア体操」では、簡略化された太極拳のような動きや、身体のつぼを優しく押したり、指を握りながら深く呼吸をするイメージ法といった誰でもできるシンプルな技法を行います。
どれも簡単な動作ではありますが、東洋医学の技術や知恵と、西洋医学の理論を組み合わせて編み出された、トラウマからの解放や体の痛みを解消するためにとても効果的な技法です。その効果は今回参加された皆さんが、体操中にすぐに目に見える形で証明して下さいました。
東松島市のコミュニティセンターでは、とても気持ちよくなってあくびがとまらない方、そして思わず眠ってしまう方もいらっしゃいました。石巻市の介護施設では、おしゃべりがとまらなかったのに肩にそっと手を置くと不思議と静かになった方がいらっしゃったり、便秘のつぼを皆で一生懸命押すと、とたんにトイレに行かれる方が席を立つ場面もありました。大船渡市のフィリピン人の女性は、指を握っただけでポロポロと涙を流され、「とても穏やかな気持ちになりました」とおっしゃられていました。
体操会の後には、様々な方が今抱えていらっしゃる健康不調やストレスを口ぐちに語って下さいました。特に多くの方がおっしゃっていたのは睡眠障害についてです。
「どうしても震災以降眠れない」「寝つきはいいが、夜中に一旦目が覚めると全く眠れないことが何日も続いている」といった声があちこちで聞かれました。眠れないので飲酒量が増加しているという男性は、身体のあちこちの不調を訴えていらっしゃいました。パトリシア先生によると、アルコールは脳を刺激する成分が含まれているため、飲酒をすると深い眠りにはつけないということで、それに代わる体操法を教えて下さいました。
また、「パルダンガム」という古代中国・韓国に伝わる技法を用いた体操には、途中ライオンになったつもりで大きな声を出すポーズがあるのですが、東松島市のある女性は「震災後、こんなに大きな声を出すことはありませんでした。身体の中からストレスが出ていったような、とてもすっきりした気持ちです」と感想を述べて下さいました。福島ではあるお母さんが「友人の子供が中学2年になるのに、顔面神経痛を発症して苦しんでいる。ぜひ、この体操を教えてあげたい」とおっしゃっていらっしゃいました。
その他、ストレスで食欲がとまらない方、震災後感情の起伏が激しくなり薬を服用するようになった方、身体の緊張が取れず、首肩のこり、顎の痛みが取れないという方等様々な症状に対する質問が数多くあり、いかに被災地の方々が健康の不調を抱えていらっしゃるかということを強く感じました。
一見すると、津波被災地では被災建物の解体、堤防や道路工事等の作業がどんどん進み、福島では放射能はなかったかのように震災前の日常に戻そうとする強い力が働いています。しかし、目に見えないところでは、人々の心はどんどんと痛みを増していっています。パトリシア先生は「心の痛みは、必ずからだのどこかに痛みを作ります。だから身体の痛みがただのコリや疲れだとは考えずに、自分の心のメッセージとして受け取ってほしい。」とおっしゃっていました。
またこれからは『第二次トラウマ期』にさしかかるとのことで、ここを上手に乗り越えられるかどうかが、その後長い時間トラウマに悩まされるか、あるいは健やかに生きていくことができるかどうかの分かれ目になっていくとのことでした。
これからも被災地では大変な状況が続きます。今回パトリシア先生が伝えて下さった簡単なセルフケアの方法が、被災地の方々が今を乗り越え、よりよい未来に向かって日々を過ごしてゆく為の活力の一助になればと願ってやみません。
(文責:東北ヘルプ職員 遠藤 優子)